カミーノ・デ・サンティアゴの2度目の挑戦として、2024年4〜5月に「ポルトガルの道」を歩きました。これは、その時のマニアックともいえる私の軽量化の記録です。
目標は体重の10分の1
伝統的な形でカミーノに挑戦する場合、旅の間に使う物を全てバックパックに詰め、それを背負って歩くことになります。このため、このバックパックをいかに軽くするかが、体を痛めることなくバテずに歩き通せるかどうかの大きな鍵となり、バックパックの重量は体重の10分の1以下にすることが理想的とされています。ですが、特に女性の場合は着るものを余分に詰め込みがち。ファッショナブルに旅をするのはステキですが、服を増やせば増やすほどザックは重くなり、毎日何を着るかを考える時間とエネルギーも取られてしまいます。カミーノでは、一旦歩き始めると、毎日体はくたくたで、余計なことは考えられなくなるため、ルーティンはできるだけシンプルにする方が楽です。私は、1度目のカミーノで8kg以上のザックを背負って歩き始めましたが、体への負担が大きすぎたため、途中で余分な服など1.2kgほどをサンティアゴの郵便局止めで自分宛てに送りました。この経験を踏まえ、2度目では最初から極限までアイテム数を減らすことを決意。薬やヘルス関連以外で「使うかも…」「あった方がいいかも…」と迷ったものは置いていくと決め、本当に自分に不可欠なものだけにし、ザックの重さを5kg以下に抑えました。
最小限のアイテムを毎日洗濯
服に関しては、まず上下をどうにでも組み合わせられるようにすることを前提に、ベースレイヤーとなるシャツは長袖2枚と半袖1枚に絞りました。私の場合、歩く時は日焼けや怪我防止のために長袖を着るので、汗だくになったシャツは毎日洗って、2枚を交代で着用しました。半袖を1枚入れたのは、乾かなかった時やなんらかの理由で洗えなかった時の予備と、寒い時の重ね着や暑い時の街歩き用にと考えました。結果的に、毎日洗濯をしながら3枚をフル活用し、これで十分でした。
ボトムは、晴れた時の歩き用にサポート・タイツとショーツ、雨の日や街歩き用にハイキングパンツ1枚と、寝る時やリラックス時のためのスエットパンツ1枚です。スエットパンツを入れたのは、雨などで汚れた時にハイキングパンツをはいて寝るのは嫌だし、前回タイツをはいて寝た時に心地悪かったためで、場合によっては歩く時にも着用できるものにしました。
防寒具は、歩くシーズンによって対応が変わってくると思いますが、私は4月下旬から5月中旬だったので、肌寒い日もある一方で初夏のように暑い日もある時期でした。最初は、寒い日のためにアークテリクスのジャケット(アトムLT、280g)を入れるかどうかとても迷ったのですが、私にとっては重すぎると判断し、代わりにミドルレイヤーとしてパタゴニアのキャプリーン・サーマルウェイト(139g)1枚と、ジャケットは拳ほどの大きさにたためる非常に軽いマウンテンハードウェアのコアエアシェル2枚(107gと120g)にしました。これらのジャケットはとても薄いウインドブレーカーですが、風を遮ってくれるうえ、多少の雨は弾いてくれ、1枚はフード付き、もう一枚はフードなしにしたので、レイヤーが可能で、寒い時は2枚を重ねてより暖かく、バラして使えばジャケットのバリエーションもできて、うまく機能しました。
下着とブラは着ているものを含めて2枚ずつ。つまり絶対毎日の洗濯が必要ですが、乾きやすいので大丈夫でした。ブラはスポーツブラのパットが取り外せるタイプで、軽量化のため1枚はパットを抜き、1組のパットを使い続けました。
靴下は、ハイキング用を3足と、歩き終えた後のノーショー・タイプを1足。他のアイテムに比べると数が多い感じですが、ハイキング用の靴下は厚くて乾きにくく、湿ったままではくと靴擦れなどの原因にもなりかねないので、ここは慎重を期しました。結果的にハイキング・ソックスは2足で間に合ったのですが、乾くかどうかを心配するストレスを考えると、予備を持っていってよかったと思います。カミーノでは足回りがキモです。
このほか、ハイキングパンツの下につけるふくらはぎ用のカーフタイツ、前回のカミーノで腰に痛みが出た時に活躍したサポート効果の高いハーフタイツも入れました。長歩きになると、弱い部分から支障が出始めるので、自分の体の弱点を知っていると事前の対応ができます。
あと、私はショートヘアなので首のうしろが日焼けしないようネックゲーターも欠かせず、寒い時はスカーフ代わり、暑い時は汗どめにもなるため、毎日洗いながら使用し続けました。
雨具は、袖付きポンチョとゴアテックスのショートゲーターです。雨具に関しては別の記事でより詳しく説明しています。
一つ一つの重さをチェック
持っていくアイテムや数がだいたい決まったら、素材とそれぞれの重さを今一度検討する必要があります。機能面で注目すべきは、通気性、透湿性、速乾性、撥水性などで、例えばコットンは、重く、汗を吸うし、乾きにくいので、私は使用しません。納得いく機能性を備えたアイテムがみつかったら、重さを計ります。一般的に速乾性の高いアウトドア・ウェアは普通の町着より軽いものが多いですが、私はシャツから下着に至るまで全てのアイテムを1つ1つきちんと計りました。いいと思っても意外に重かったり、同じブランドの同じスタイルの商品でも色によって重さが違ったりするためです。「チリも積もれば山となる」で、1gでも軽いものをという執念が、最終的なザックの軽量化につながります。
着るものだけでなく、ザックやトレッキングポールなども、買う時に重さを意識すると、大きな違いがでます。例えば、私のトレッキングポールはブラックダイアモンドのZポールで、使わない時は三つ折りにして小さく畳めるだけでなく、カーボン製なのでとても軽量です。
お財布も、現地で使うユーロ用は、オスプレイの「ウルトラライト・ウォレット」にしました。四角いパウチにジッパーがついただけのいわゆるハイカー・ウォレットで、わずか10g。ポケットも何もないシンプルなデザインですが、これにキャッシュとクレジットカードを1枚入れて毎日使用し、特に不便は感じませんでした。現地のお店やレストランではほとんどのケースでカード決済が可能です。
靴とサンダルを再考
また、カミーノでは歩く時にはくハイキングシューズの他に宿でシャワーを浴びる時などのために濡れてもいいサンダルが必携です。私は前回、登山靴がハイカットだったので、宿に着いて一旦ぬぐと、翌日に歩き始めるまで履く気にならず、街歩きにも使えるようにと持って行ったメリージェーン・スタイルのCrocsが活躍しました。ただし、これは400gもあったうえ、壊れたので、今回は別のサンダルを選ぶ必要があり、軽量化の大きなターゲットの一つとなりました。
KeenやMerrelなどのスポーツサンダルは丈夫でサポートもしっかりしてますが、350g以上あります。そこで私は根本的なアプローチを見直し、ハイキングシューズ自体を、スニーカー感覚で気軽に着脱できるAsoloのローカットにして街歩きにも使えるようにし、サンダルは基本的に宿で使うだけと割り切ることにしました。そうなるとひたすら軽量化重視ですが、いわゆるビーサンはみかけによらずけっこう重く(私の持っている普通のビーサンで193g)、靴下を履く時に困るし(行くのは春なので宿が寒いケースも考えられる)、スタイル的にもちょっと抵抗がありました。そこで選んだのが、ビルケンシュトックのアリゾナEVA。多少かさばりはしますが、なんと170g という驚異的な軽さ。靴下もはけるし、ビーサンよりサポートもしっかりしていて、これは大満足でした。夏なら街歩きにもはけそうですが、ポルトガルには急な坂だらけの街もあるので、踵が固定されないつっかけ式のサンダルは歩きにくいケースもあることを頭に入れておく必要があるかもしれません。
容器は詰めかえ
洗面用具は、歯磨きやローションなどは旅行用のミニサイズを揃え、多すぎる場合は小さな容器に詰め替えました。薬なども箱や瓶から出して小分けに。こうすることで、重さだけでなく、カサも大幅に減らせます。日焼け止めは必須ですが、液体は重くなるし、機内持ち込みの制限もあるため、私は小さな缶入りのクリームタイプにしました。
余談ですが、私はフライトでバックパックをチェックインしませんでした。昨年はヨーロッパ路線を中心に「荷物が出てこない」「別の空港に持って行かれ回収に何日もかかった」といった問題が多発したことが記憶に新しく、万が一航空会社のミスでチェックインした荷物が到着後すぐにでてこなければ、せっかく時間とエネルギーをかけて準備したカミーノの旅が出足からつまづくことになると思ったからです。そう考えると、機内持ち込みができるくらいザックの荷物を小さくするというのも一つの目安になります。ちなみに、私の利用したポルトガル航空は、トレッキングポールもアスリートに必要なツールとして機内持ち込みを認めているため、折りたたんでザックの中にいれていれば、持ち込んでも問題ありませんでした。
活躍したもの
結局、持って行ったものはほぼ全て活用しましたが、以下は特に役に立ったと感じたものです
⚫︎フィルター付き水ボトル
歩く時は水分の補給が重要なのでその準備が必要です。キャメルバッグのようなリザーバー式のハイドレーション・システムは、便利ですが、残量がわからず、水の補充が面倒で、入れすぎると重くなるため、私の選択肢にはありませんでした。前回は、薄くて軽いプラスチックに入ったボトル水を現地で調達し、それに水を補給し続けましたが、今回は強力なフィルターのついた水ボトル(EPIC NALGENE OG SLIM | 24 OZ)を持って行きました。フィルターの分だけ普通のボトルより少し重くなりますが、バクテリアや塩素のほか、農薬などのケミカル、鉛、マイクロプラスティックなど様々な有害物質を99%以上浄化してくれ、味も美味しくなります。おかげで、どこの水でも「飲めるかどうか」を気にせずに安心して利用でき、店でボトル水を買う手間やコストも省けました。これは空港でも、セキュリティを通過後に、ウォーターファウンテンや手洗場で水を補給すれば、待ち時間や飛行中の水が確保できて便利です。
⚫︎ショルダーバッグ
前回は、ザックのほかにパスポートやお財布など貴重品を入れたファニーバッグを腰に巻き、街歩き用にナップサックも持っていきましたが、今回はファニーバッグの代わりに無印良品の「ウエストポーチにもなる 撥水ショルダーバッグ」(4L、165g)にし、これが非常に活躍しました。当初は大きすぎるかとも思いましたが、バックパックと併用しても問題なく、貴重品や頻繁に出し入れするもののアクセスがとても楽でした。3つのコンパートメントに分かれているので、整理しやすく、街歩きの時には、水ボトルや薄いジャケットなども入れられ、ナップサックを持っていく必要がありませんでした。斜めがけの時にストラップがバックパックの背中部分にあたるのでは、と少し心配しましたが、この点も全く気になりませんでした。
一つ問題は、撥水加工はしてあっても、本格的な雨にさらされると中のものが濡れるという点です。でもほとんどのバッグはそうだと思うので、パスポートや巡礼手帳など大事なものはジップロックのような小さなビニール袋に入れてからバッグに入れる必要があります。
⚫︎マグネティック式パワーバンク
スマホは、歩きながらの地図や現在地の確認から、写真撮影、緊急時や人との連絡、ブログの投稿に至るまで1日中手放せず、バッテリーが切れないようにすることが非常に重要なので、パワーバンク(モバイルバッテリー)は必需品です。さまざまな種類のものが販売されていますが、基本的に容量が大きくなるほど重く、大きくなり、デザインによってはいくつものコードが必要になります。その点、私が持って行ったUGreenのマグネティック・パワーバンクは、とても軽くコンパクトなうえ、磁石でスマホ本体に強力に吸い付いてコードなしでもバッテリーの充電が可能。充電中でもそのまま普通に使い続けられるため、とても重宝しました。軽量化のために、容量はあえて少なめの5000mAhにしましたが、宿に着くまでの毎日の行程をこなす分には十分でした。
成果
こうしてザックの軽量化に苦心した効果は絶大で、私は毎日約20〜25kmの距離をそれほど負担を感じることなく、かなりのハイペースで歩き通すことができました。どうみても余分なものがたくさん入っているとしか思えない重いザックで来ていた友人は、途中で歩けなくなってバスに乗ったり、荷物を次の宿まで運んでくれる有料サービスを使ったりしていて、この違いは体力だけでなくザックの重さが大きく関係していることは明白でした。必要なものや重要と感じるものは人によって違うため、最後はそれぞれの判断による選択になりますが、少しでもザックを軽くすれば、カミーノを楽しい旅にできる可能性がより大きくなると思います。
*今回私の歩いた具体的な行程などは、こちらの記事で紹介しています。